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又吉直樹「火花」は「花火」で終わるのか?

芥川賞を受賞した又吉直樹の「火花」の書評を、
森村泰昌氏が「芸術家M、題名のないエッセー」(熊日新聞)の中で
なかなか面白い書評を書かれていたので読んでいないあなたにご紹介しますが、

 

興味のある方だけ読んでくださいね。全文引用です。

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若い漫才師と、彼が師匠と慕う兄貴分の漫才師が繰り広げる奇妙な交流の物語である。
話は熱海の夏の花火大会に始まる。

若手芸人の徳永が、この地で先輩芸人の神谷に出会う。
最後は再び熱海の花火大会のシーン。ただし季節は冬に変わる。

 

作者が某テレビ番組で話していたところによれば、
母親が「『花火』、読んだで」と返事をくれたそうである。
そのとき、「ああ、母は読んでないな」と思ったという。

 

この母親による「花火」と「火花」の混同は、
むしろ作者の思うツボだろう。

 

なにせ物語は「花火」で始まり「花火」で終わるのだし、
漫才とはボケとツッコミが言葉の応酬に「火花」を散らす芸のことなのだから、

 

火花」を読んで、
「この奇妙な読後感はなんだろう」と思った。
例えばこういう一節がある。

 

「渋谷駅前は幾つかの巨大スクリーンから流れる音が激突しては混合し、
それに押し潰されないよう道行く一人一人が引き連れている音も
また巨大なため、
街全体が大声で叫んでいるように感じられた」

 

要するに、
渋谷が喧騒の街だと言いたいわけだが、
今どきこのような持って回った言い回しを駆使する
「純文学」は見当たらないのではないか。

 

だが、「火花」では、
昔、有象無象の小説家たちが腐心したであろう、
「懐かしい」文学的表現が冒頭から始まり、その後も繰り返される。

 

その「純文学」を礼賛するかのような美的文体は、
又吉直樹がこよなく愛する、
太宰治をはじめとする文学作品のパロディーとも感じられるほどだが、

 

かえってその臆面のなさが、
忘れられつつあるよき時代の文学の復興めいて、
そこが読者の共感を呼ぶ力となる。

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一方で、
火花」はまったく別の面もある。

 

今述べた典型的な「純文学」的表現を除くと、
残りのほとんどは、
神谷と徳永の会話で成り立っており、
それは見事のボケとツッコミが絡む漫才の新手の台本となっている。

 

ならば本作は小説家の又吉直樹と、
漫才の台本を書き実演する漫才師のピース又吉という
二重構造が明確に自覚されて書かれた、

 

実に用意周到な、
まるで完全犯罪のような作品だと言えないか。

 

私の言う奇妙な読後感とは、
この「火花」の二面性が醸す、
不確定なゆらぎの感覚だと言っていいだろう。

 

作者は、
小説の中の徳永のように、
世間からいかんともしがたく浮いた存在として
自分自身を感じている。
その身の置きどころのなさを是認してくれる太宰に傾倒し、「火花」は書かれた。

 

「又吉」は、
芸能界も文学界も大好きで憧れているが、
どちらにもおさまりきれない自分を知っている。

 

その身の置きどころのなさを、
むしろ武器として心に秘め、
この小説の執筆に賭けたのである。

 

ただし留意すべき重要な点は、
作者の分身が徳永なのではない、という点である。

 

そうではなく、
情緒的で弱気な徳永も、
論理派で強気な神谷も、
ともに「又吉」自身であり、

 

あえて言うならその掛け合いは、
ピース又吉又吉直樹の内的な対話なのである。

 

「神谷+徳永=又吉」は、
世界の常識を覆す究極の漫才を求めてやまなかった。

 

思うにその究極の漫才とは、
他ならぬこの「火花」自体のことである。

 

ピース又吉が求める究極の漫才は、
小説という形でのみ成立し、

 

又吉直樹が憧れる太宰の衣鉢を継ぐべき小説は、
漫才の台本として書かなければ成立しえなかった、
と言わねばなるまい。

 

以上長いようで短い引用でしたが、
なかなか言い得て妙的な書評でしてたね。

 

果たして又吉直樹は一発の花火で終わるのか、
今後の活躍を期待しましょうね。

 

7月24日追伸
一発の花火では終わらないようですね。
こんな談話が載っていました。

 

「『芸人として初』というところが強調されていますが、
又吉の芥川賞受賞は間違いなく快挙です。
同賞は、又吉が心酔する太宰治が熱望したにもかかわらず受賞がかなわず、
今や世界的作家となった村上春樹も受賞を逃しています。

 

『火花』は受賞後に計60万部の増刷が決まり、
累計発行部数は124万部と発表されました。
長い出版不況の今、純文学で100万部を売れる作家は皆無です。

 

一概に比較はできませんが、
情報サイト『オリコンスタイル』発表の『2014年 年間“本”ランキング』によると、
『文芸(小説)』の1位は池井戸潤の『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)ですが、
期間内推定売上部数は約47万部ですから、『火花』の人気がわかります。」

 

さっそく明日は本屋に行って「花火」じゃなかった「火花」を買いに行くか!

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